はじめに IPアドレス固定は必須!
ネットワーク上のNAS(Network Attached Storage)を安定的かつ効率的に運用するためには、IPアドレスの固定化が不可欠である。
特にWake-on-LAN(WOL)機能を活用してNASを遠隔起動する場合、IPアドレスが起動のたびに変化すると、接続不能や業務ツールの動作不良といったトラブルを招く可能性がある。
本稿では、NAS初期設定が済んでいる前提で、QNAP製NAS(TS-216G)を例に、IPアドレスが変化することを回避するための具体的な固定方法について解説する。

NASのIPアドレスを固定する2通りの方法
- QTSにログインし、「コントロールパネル」→「ネットワークと仮想スイッチ」へ進む
- 対象のLANインターフェースのIPv4設定を「静的」に変更
- 固定IP(例:192.168.1.200)を入力し、DHCPの割り当て範囲外に設定する
- 設定を保存し、NASを再起動することで反映される
- NAS側は「DHCPのまま」でよく、再起動後に指定IPが自動的に割り当てられる
- ルーターの管理画面にアクセスし、「DHCP設定」または「IPアドレス予約」へ進む
- NASのMACアドレスに対して希望するIPアドレス(例:192.168.1.200)を割り当てる
- ルーターの再起動は通常不要だが、古い機種では有効な場合もある
どちらの方法も、Wake-on-LANやネットワークドライブの安定運用において重要な前提となる。運用環境に応じて適切な方式を選択すべきである。
会社のインフラを整備する立場なら、NAS側で設定する方が推奨されるが、家庭用・小規模オフィス・プライベート実用向け用途で、かつルーターの管理者権限がある場合、ルーター側で制御する方がかんたんだ。ここからはルーター側でIPアドレスを固定する方法を紹介する。
NASのIPアドレスとMACアドレスを調べよう
QNAP NASを導入する際にインストールしたQNAP Qfinder Proを起動しよう。

何の芸もないが、ずばり、現状のIPアドレスと、機種のMACアドレスが一目瞭然で分かる。この2種類の、192.168~から始まるIPアドレスと、MACアドレスの英数字を控えておこう。
MACアドレス(Media Access Control Address)とは、ネットワーク機器に割り当てられた物理的な識別番号であり、LANポートやWi-Fiアダプタなど、通信インターフェースごとに一意に設定されている。
通常、12桁の16進数(表記イメージ例:【A1:B2:3C:E4:6D:5F】)で構成され、製造時にハードウェアに書き込まれるため、世界中で重複しない唯一無二の識別子として機能する。
この特性により、ルーターやスイッチはMACアドレスを基に機器を識別し、IPアドレスの割り当てや通信制御を行う。
NASのIPアドレスを固定する際にも、MACアドレスを指定することで、特定の機器に対して安定したネットワーク設定が可能となる。
MACアドレスは、ネットワーク管理やセキュリティ設定の基盤となる重要な情報である。
ルーター側の設定をしよう
筆者の環境はNTT製ルーター(型番:XG-100NE)である。どのルーターでも同じような項目があるはずなので適宜読み替えてほしい。
ブラウザーのアドレスバー(URL入力欄)にルーターのIPアドレスを入力する。(例では192.168.1.1)
ルーターのメーカーによってはセグメント(IPアドレスの3つめの数字)が1ではなく2だったり3だったり11だったりするので注意してほしい。

ルーター管理画面から、DHCPv4サーバ払い出し状況をクリックする。

先ほどQfinder Proで確認したNASのIPアドレスを見つけて、MACアドレスに相違ないことを確認しよう。設定で貼り付けるので、表示されているMACアドレスのテキストをコピーすると、かんたんだ。

管理画面からDHCPv4サーバ設定をクリックして開く。

めちゃくちゃ分かりづらいが、[DHCP固定IPアドレス設定]という青文字リンクをクリックしよう。なぜここだけボタンでないのかは不明。




IPアドレスを指定する際は、以下の基本ルールに従う必要がある。
- 同一ネットワーク内で一意であること:他の機器と重複しないIPを設定する
- DHCPの割り当て範囲外を使用すること:ルーターのDHCP範囲が192.168.1.2〜192.168.1.100であれば、192.168.1.200などを選ぶ
- サブネットマスクとゲートウェイを正しく設定すること:通常は255.255.255.0および192.168.1.1を使用
- 使用するIPが未使用であることを確認すること:事前にPingなどで重複を避ける
これらの条件を満たすことで、安定した通信とネットワーク管理が可能となる。IPアドレスの指定は、ネットワーク運用の信頼性を左右する重要な要素である。
特に事情がなければ、例と同じように192.168.1.200とすればOKだ。ただし、ルーターのセグメントが2の場合、NASのセグメントも192.168.2.200となる。セグメントの数字は環境によって変わるので注意してほしい。
設定が終わったら、通常はルーターを再起動する必要はない。QNAP NASだけQfinder Proから再起動しよう。

以後、再起動の度にIPアドレスが変動することはなく、ルーター側で指定したIPアドレスに固定される。
まとめ
本稿では、QNAP NASの、たとえばWake-on-LAN運用におけるIPアドレスの変動リスク等を想定して、それに対する固定化の方法について解説した。IPアドレスが起動のたびに変化する状況は、業務ツールの接続不良や同期エラー、セキュリティ設定の破綻を招く可能性がある。
これを回避するためには、NAS側で静的IPを設定する方法と、ルーター側でMACアドレスに基づくDHCP予約を行う方法のいずれかを選択し、安定したネットワーク環境を構築する必要がある。本稿ではそのうちルーター側で固定する設定を紹介した。
また、ネットワークドライブの割り当てやOneDriveとの併用といった実運用上の観点からも、IPアドレスの固定化は不可欠である。MACアドレスという唯一無二の識別子を活用することで、機器の特定と管理が容易になり、ネットワーク全体の信頼性が向上する。
IPアドレスの管理は、NAS運用の基盤であり、日常的な業務や活用の安定性を支える重要な要素である。適切な設定と理解をもって、より安全かつ効率的なネットワーク環境を実現していきたい。