樺沢紫苑著『父滅の刃』読書感想・書評~父親とは何か。父親殺しの心理学

父滅の刃&トートバッグ

北海道出身の精神科医で作家の樺沢紫苑先生(@kabasawa)の新刊(2020年8月1日発行)、『父滅の刃』を入手した。約420ページに及ぶ。単行本としてはかなり分厚い。ちょっとした辞典クラス。私は書籍配送付きの『父滅の刃』出版記念講演会の動画配信に申し込んだので、トートバッグ付きで配送されてきた。レアものである。

タイトルについて~父滅・・・鬼滅の刃!?

タイトルは、アニメで大ヒットした鬼滅の刃のパクりじゃねーか!と思う人もいると思うが(というかそれ以外考えられないが)、もちろん鬼滅の刃に関連した論考もある。

本書では鬼滅の刃を「父性(ふせい)」というキーワードで着目している。

父性消滅に対抗する刃(手段)という想いを込め、『父滅の刃』(ふめつのやいば)としましたとのこと。また、当初は『父性消滅』というタイトルで出版を考えていたらしい。『父性消滅』というと哲学・心理学のカテゴリに属するだろう。書店ではあんまり売れないコーナーというイメージがある。一般書として陳列されるためには、もっとキャッチーなタイトルがいい、ということで『父滅の刃』としたらしい。本書の編集者、城村典子さん(@Jomura_Fumiko)の出版記念講演会での、いわばここだけのお話。

本書はアニメ・映画で描かれる父性に着目

本書には私が知らないアニメや映画がたくさん登場する。というか100本以上の作品が登場するので、全部観た事ある、という人はレアだろう。ものすごい量の作品群なので、もちろん知っている作品も結構ある。

知らない作品は斜め読みで、約3時間かけて読了した。1分で2ページだから速いペースだが、それだけわかりやすく書かれているということでもある。

ネタバレあるの??

なお、ネタバレを気にする人は読まない方がいいのかといえば、それはNOである。だいたい、すでに入手できるアニメ・映画の作品はあらすじやそれなりの内容の紹介がなければ観る気がしない。そういう意味で、本書はアニメ・映画をセレクトするためのガイドブックとなっている。父性とは何か、父親との関係性で悩んだ事のある人、謎を解明したい人は、むしろこの父滅の刃を羅針盤としてアニメ・映画をチョイスして改めて鑑賞すると、非常に腑に落ちるはずだ。

結論、作品の肝に関するネタバレは一切ないので、むしろガイドブックとして先に読む事をおすすめする。

アニメ・映画のガイドブック~消えた父親はどこへ

本書で最も痛快だったのは、『アナと雪の女王』のこき下ろしである。観た事のある人はわかると思うが、父親乃至頼りになる男性がひとりも出てこない。映画館で見終わった後、(まあディズニーなので)爽やかな感動と共に、あまりにも不甲斐ない男性登場人物に、男性不要論が根底にあるのでは?などと違和感を感じた事を鮮明に覚えている。その点で、樺沢先生は父性という観点で、ズバリ斬っている。本書で紹介されている内容に関しては是非手に取って読んで欲しい。

父親は要らないのか?

私はアニメはよく観るのだが、本書に出てこない作品にも、そういえば主人公の父親がまるで出てこない作品が多々ある。

本書で紹介されている『君の名は。』でも父親の存在感がない。父親とは一体どういう存在なのか。個人的にも疑問に感じるし、映像作品は時代を反映していると思われるが、父親の存在、何が父親なのか、父性が見えなくなっている。自分がそうなりたいという尊敬できるオトナのような対象がいない。

本書を読んで、時代の瘴気のようなもののひとつに、父親不在があると感じた。現代人の生きにくさの謎が確かにそこにある。謎を解くために、本書は啓示を与えてくれる。

新世紀エヴァンゲリオンの謎が解けた

この作品、新世紀エヴァンゲリオンは大体の人は観た事があるのではないか。とはいえ、95年に放送されたTVアニメは謎だらけだった印象がある。樺沢紫苑先生の鑑賞の仕方は独特で、やはり父親との関係性に着目している。私にとってはなるほどそういうことか!という謎に対する解を与えてくれた。いわば、父親あるいは母親との問題をかかえた人々がそれを補完しあう物語(人類補完計画!)である。

新世紀エヴァンゲリオン」 TVアニメ放送版の最後は意味不明で、世間でも物議を醸した。ほとんどのファンが混乱し、賛否両論の大論争が巻き起こった。

しかし、樺沢先生は本書で述べている。

なんてわかりやすいんだ。こんなにわかりやすく説明してしまっていいのか

父滅の刃187ページ

つまり心理学的にみて直接的に説明しているという事である。ラスト2話は碇シンジにとって、「生きられなかったもう一つの人生」、父親と母親の補完の物語なのである。本書にはもっと具体的にわかりやすく掲載されている。この項を読んで、エヴァンゲリオンの謎が自分なりに解明できた。さすが精神科医の心理分析である。

時代を先に読むための羅針盤として

観た事ある作品のこの部分はこういう意味だったのか、という解になるし、これからの作品で父親の描き方によって、作品鑑賞の新たな着眼力になる。特に食卓の描き方から作品を読み解く方法は、目からうろこである。この本を読んで新たな鑑識眼をいただいた。

樺沢先生によると、これからは父性不在の時代から、父性消滅の時代に移り変わろうとしている。それはこれからの最新の作品群から自ずと証明されていく事だろう。

新たな着目点として、本書を活用するとこれからのアニメや映画の鑑賞の仕方も変わってくるだろう。何となく面白かったなー、つまらなかったなー、ではなくて、もう一歩、家族、特に父性の問題から、何故面白かったのか、つまらなかったのか、新たな視点で深く鑑賞できるはずだ。

自分自身にとっての父親とは?そして自分で考える

まず、本書を読めばわかるように、父親と確執があるのは特別なことではないということだ。割と大部分の人は、問題を抱えており、誰でも大なり小なり父親との葛藤があるものだ。それが本書を読んでの気付きである。

本書では、父性消滅に対して、どうすればいいのかという解は書かれていない。自分で考えて、行動して気付きを得て反省しながら次に向けて歩みゆくしかないのである。それこそが本書の真骨頂、見守る、自分で考えるという、本書でいうところの父性なのである。父性消滅の時代だからこそ、自分自身が良き父性としての規範を示して、時代を作り上げていく事だ。その中にきっと新しい未来と希望がある。

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